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第3話 終わりと新たな出会い

مؤلف: 葉山心愛
last update تاريخ النشر: 2025-09-12 14:31:19

通常通りに仕事をし、家に帰るとまた涙がこぼれる。

そんな日々が何日か続いた。

泣いても泣いても、胸の痛みは消えなかった。

──そして、金曜日。

スマホに表示された望からのメッセージに、わたしの心臓が跳ねた。

《この前のこと、ちゃんと説明させて》

ようやく、か。

けれど、わたしの気持ちはもう揺れなかった。

心の奥底で、すでに答えは出ていたから。

わたしは短く返信を打ち込む。

《明日、土曜日の14時。駅前のファミレスで》

送信ボタンを押した瞬間、六年間の終わりを静かに受け入れた気がした。

その夜、わたしは望の私物を整理しはじめた。

机の引き出しから出てきたのは、二人で撮った写真。

初めて旅行に行ったとき、観光地の前で無邪気に笑う自分と望。

ライブに一緒に行ったときに買ったおそろいのTシャツ。

映画の半券、テーマパークのキーホルダー、小さなプレゼント……。

一つひとつに、六年分の思い出が詰まっていた。

触れるたびに、当時の光景が鮮やかによみがえる。

――ずっと、あなたと結婚すると思っていた。

切なさが胸を締めつけた。

けれど、涙はもう出なかった。

ただ静かに、思い出に区切りをつけていく。

それが、望との最後の夜になるのだと分かっていた。

***

翌日の午前、わたしは行きつけの美容室のドアを押した。

ここは、高校時代からの友人であるヒロコが営む店。

突然訪れたため、予約もしていない自分を迷惑に思われるのではと不安だった。

けれど中に入ると、すぐにヒロちゃんが気づいて歩み寄ってきた。

わたしの表情を見て、彼女はにっこりと笑う。

「……決めた顔してるわね」

わたしは少しだけ照れくさく笑い、口を開いた。

「このあと……望と会うの。だから、きれいにしてもらえる?」

「ふふ、そう来なくちゃ。任せときなさい」

ヒロちゃんの声は頼もしかった。

「今、他のスタッフは予約のお客様で手一杯なの。アタシでいいかしら?」

「もちろん」

わたしは迷わず頷いた。

ヒロちゃんは昔からセンスも腕もよく、わたしの一番の理解者でもあった。

長い付き合いだからこそ分かるわたしの魅力を、余すことなく引き出してくれる。

鏡の中に映る自分が、少しずつ変わっていく。

丁寧にブローされ、スタイリングされるたびに、心の奥でしぼんでいた自信が少しずつ取り戻されていくようだった。

仕上がりを見て、ヒロちゃんが満足げに言う。

「うん。とびきりきれいになった。これなら、どんな顔して会っても大丈夫」

わたしは鏡越しに微笑み返した。

「ありがとう、ヒロちゃん」

背中を押してくれるその存在が、何よりも心強かった。

わたしは笑顔のまま美容室を後にし、約束の場所へと足を向けた。

もう、迷いはなかった

***

ファミレスに入ると、望はすでに奥の席で待っていた。

わたしの姿を見て、彼は驚いたように目を見開いた。

いつもと違う装いに、何かを期待したのかもしれない。

わたしは何も言わず、望の正面に座る。

メニューを開くこともなく、コーヒーだけを注文した。

すぐに運ばれてきたカップを前に置き、わたしは冷静に切り出す。

「……話って?」

望はしばらく黙ったあと、小さく息を吐き出した。

「……ごめん」

そして、口を開いた。

「この前の女性……実は、1年前から付き合ってる」

わたしの心臓がぎゅっと掴まれる。

――1年も前からだったなんて。

六年の関係の裏で、ずっと裏切られていたのだ。

「ななちゃんが仕事ばかりで……生徒のことばかりで……俺、寂しかったんだ」

望は言い訳を並べ立てる。

けれどその姿を見つめていると、わたしの中で何かがすうっと冷めていくのを感じた。

六年間積み重ねた気持ちが、こんなにも簡単に色を失うなんて。

「……ななちゃんが望むなら、あの子とは別れるから」

望が縋るように言ったとき、わたしは静かに答えた。

「別れる必要はないわ。……わたしは、あなたと付き合い続けるつもりはないから」

その言葉に、望は息を呑んだ。

わたしがきれいに装って現れたのを見て、きっとやり直せると思ったのだろう。

けれど、その期待はあっさりと打ち砕かれたのだ。

わたしは席を立ち、用意してきた紙袋をテーブルに置く。

中には望の私物が詰まっている。

「今までありがとう。……さようなら」

そう告げて、背を向けた。

外に出た瞬間、胸の奥に吹き抜ける風が心地よかった。

悲しみよりも、スッキリとした解放感がわたしを包んでいた。

**

望と別れてからの日々、わたしはますます仕事に没頭するようになった。

髪型を変えたこともあり、周囲の目に映る自分もどこか違って見えているようだった。

「先生、なんかきれいになった!」

保健室にやって来た生徒が目を輝かせてそう言った。

「えー、絶対彼氏できたんじゃない?」

「そうそう!そんな感じがする!」

からかうように騒ぐ生徒たちに、わたしは苦笑しながら首を振る。

――彼氏が出来たんじゃなくて、別れたのよ。

心の中でそう呟きつつも、声に出すことはなかった。

そんなやり取りをしている最中、ふと保健室の入り口に目をやると、見慣れない姿が立っていた。

制服の胸元には、まだ新しさの残る1年生のリボン。

「……どうしたの?」

わたしは優しく声をかけた。

けれど、その生徒―酒井真央は何も言わない。

大きな瞳でただ保健室の中を一瞥し、立ち尽くしている。

「体調悪いのかな?それともケガ?」

わたしはもう一度問いかけた。

そのとき、かすかな声が返ってきた。

「……いいえ」

それだけ告げると、酒井さんはくるりと背を向けて去っていった。

「あ……」

わたしは思わず追いかけようとしたが──

「先生!これ見てください!」

保健室の中から生徒に呼ばれ、足を止めざるを得なかった。

振り返った廊下には、もう彼女の姿はなかった。

わたしの胸の奥に、小さな棘のような違和感だけが残った。

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